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「・・・もう、絶対お酒なんか飲まないもん!!」

ずきずきする頭に冷たいタオルを乗せて桃源郷のあたしの部屋で呟けば、むなしくその声が部屋にこだまする。息を吐くとまだちょっとお酒の香りがする・・・気がする。
まさか・・・自分にこんな癖があるとは思わなかった。










「おや?どうしたんですか三蔵?」

「あっ三蔵!!」

八戒と夕飯の支度をしていたら突然玄関の扉が叩かれたから、てっきり罰ゲームで買出しに出かけた悟浄が帰って来たのかと思ったら・・・三蔵だった。

「届けもんだ・・・」

「三蔵!重いって!!」

「おやおや悟空、随分重そうですねぇ。」

そう言って三蔵の後に入ってきた悟空から八戒が受け取ったのは・・・大きな木の箱。
良くワインとか入ってるような木のやつで、その中に何本かビンが入っているのがチラリと見えた。
え?ちょっと待って。
悟空ってばこの木箱いっぱいにビンが詰まってるのを全部まとめて持って来たの!?
それって凄い重いんじゃ・・・。
それを体で表すかのように八戒に箱を手渡した瞬間、大きく息を吐くと悟空は床に潰れるように座り込んでしまった。

「三蔵全然持ってくんないんだもんな。」

「何故俺が持つ必要がある。」

「三蔵が貰ったんだろ!」

「へぇ珍しい種類のお酒ですね。」

先に受け取った分から開けて中身を八戒が眺めていたからあたしも横からそれを覗き込んだ。

「数種類が入ってるみたいですね。中には女性向けの軽めの物もあるみたいですよ。」

「へぇ〜・・・」

お酒には強くないけど、好奇心だけなら人一倍ある。
次々出てくる中身を手にとってはラベルを見たり、色を見たりして楽しんでいた。

「こちらのお酒をあちらのテーブルに並べて、食器棚からグラスを幾つか出して貰ってもいいですか?」

「どれでもいいの?」

「えぇお任せします。その間に僕は作りかけていた夕飯と、つまみになる物を作ってきますから・・・テーブルの方もお願いしますね。」

「了解!」

わざとらしく真面目な顔をして敬礼をしたら、八戒がクスクス笑いながら数本のお酒を持って台所へ消えていった。
残されたあたしは八戒が出してくれたお酒を割らないよう気をつけながらソファーの側にある小さなテーブルの上に並べていった。

「ところで三蔵、このお酒どうしたの?」

「・・・貰った。」

「ふーん・・・何かのお礼?」

「そんな所だ。」

最近のお坊さんはお布施代わりにお酒貰ったりするのかな。
食器棚から綺麗なグラスや八戒と悟浄のお気に入りグラスを取りながらそんな事を考えていてふと手が止まった。

・・・お坊さんがお酒飲んじゃまずいじゃん!って事は誰もお布施でこんなのくれないよ。
そうは思ったけどどうせ聞いても教えてくれないよね。
さすがにこれだけ長くいると三蔵の性格も大体分かってくる。



そして――― 触らぬ三蔵に祟り無し ―――って言葉もね。





それから元気になった悟空と一緒に食卓のテーブルを整えて、後は料理を待つだけって状態になった所で八戒がたくさんの料理を持ってきた。
それを見て目を輝かせている悟空とあたしを余所に八戒は三蔵にテーブルの上に並んでいるお酒を指差した。

「三蔵、どれから行きますか?」

「適当でいい。」

「わかりました、それじゃぁ。最初はどれがいいですか?」

食事に目移りしていたあたしの肩を叩きながらにっこり笑顔でテーブルに並んださまざまなお酒を勧められたけど・・・イマイチ良く分からない。

「八戒が選んだのでいいよ。でも弱めのヤツ、お願いします。」

「分かりました。それじゃぁこれにしましょうか。」

そう言って八戒が選んだのは・・・赤ワイン、かな?

「食前酒と言う事で・・・はい、どうぞ。」

「ありがとう。」

「これなら悟空でも平気だと思うんですが・・・」

そう言って八戒が悟空の方へそれを差し出すと、三蔵があっさり取り上げてしまった。

「ダメだ。コイツは酔うと手がつけられん。」

「そうなんだ。」

「それじゃぁダメですね。」

「ちぇ〜っ一口ぐらいいいじゃん。」

口を尖らせて拗ねてしまった悟空に、ちょうど目の前にあったホイル焼きを差し出す。

「悟空、これね。八戒に教えてもらってあたしが作ったの。」

「え?が!?」

「うん。お酒の替わりにこっち食べて感想、聞かせてくれる?」

「うん!!」

「・・・随分サルの扱いに慣れたじゃねぇか。」

「・・・おかげさまで。」

こっちに来たばかりの頃は誰と喋るのも緊張していたけど、時が経てば人間ってある程度は慣れるんだって事が分かった。
それに保父さんと言われる八戒の側でずっと悟空の扱い見てたからね。
なんの躊躇いもなく料理を食べ、お酒を飲み始めようとした皆に慌てて声を掛けた。

「あっ待って待って!悟浄がまだだよ?」

「いないヤツが悪い。」

「だってメシ冷めちゃうし。」

「お酒も料理もまだいっぱいあるから大丈夫ですよ。」

・・・誰も悟浄待つ気これっぽっちもないな。

「それに・・・」

「それに?」

「罰ゲームですから。」

にっこり笑顔で言われ、出来立ての鳥のチーズ焼きを手渡されて・・・悟浄を待つなんて事はあたしには出来なかった。



ごめん悟浄!せめて帰ってきたら・・・お酒をついであげるから。





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